ひきこもり期間が5年、10年と長期にわたっているケースも存在します。40歳以上でひきこもり状態にある人は70万人以上といると言われます。
そしてそのひきこもりの背景にはこれまで見過ごされていた「発達障がい」が隠れている場合があります。特性があるが故に人間関係で悩み、学校や職場にうまく適応できなかったことがひきこもりの要因になっていることも考えられます。
ここでは発達障がいの基本概念についてお伝えし、ひきこもりとの関連についてお届けします。
この記事でお伝えしていること
▫️発達障がいの種類
▫️発達障がいとひきこもりの関連性
▫️発達障がいが考えられる場合の対応について
▫️ひきこもりからの脱却に向けてできること
■略歴:OFFICE NAKAGAWA代表 なかがわひろか(中川広佳)
中学時代に不登校を経験。その後学校復帰。関西学院大学に合格する。大学卒業後、人材紹介会社にてマーケティング・人事を経験。
あるひきこもりの青年に出会ったことから、起業を決意し、専門的なカウンセリング・学習・キャリアサポートを行うOFFICE NAKAGAWAを2011年2月に設立。公認心理師、産業カウンセラーの資格を有する。
発達障がいを抱える方の大学進学、就職サポートを行う。
8050問題や、ひきこもりの対応など、PTA、学校関係、行政関係など講演実績多数。
【得意としている分野】
1. 不登校やひきこもり、発達障がいを抱える方またそのご家族のケア
2. 心理療法を応用した学習・就労支援
3. ビジネススキルの習得
発達障がいと一口に言っても、その種類はそれぞれに異なります。代表的なものとしては、以下のものが挙げられます。
▫️ASD(自閉スペクトラム症:Autism Spectrum Disorder)
▫️ADHD(注意欠如・多動症:Attention-deficit/Hyperactivity disorder)
▫️SLD(限局性学習症:Specific Learning Disorder)
従来「アスペルガー症候群」や「自閉症」と呼ばれていたものはASDに統一されています。SLDは「学習障害」と呼ばれていたものです。発達障がいの名称はアメリカ精神医学会が出版している「精神疾患の分類と診断の手引き」においては「神経発達症/神経発達障害群」と呼ばれています。
発達障がいの考え方は、年とともに大きく変化していきます。代表的な3つのものについて詳しくみていきましょう。
対人コミュニケーションに苦手さを抱えていたり、強いこだわりを示します。幼児期に診断を受けていなくても、大人になってからわかる場合もあります。人間関係でつまづくことが多く、二次障害(発達障害を一次障害とし、その影響でうつ病などの障害が出ること)で苦しまれている方もいます。
以下の症状が、Aは3つとも、Bは2つが該当し、かつ幼少の頃から(大人になってから明らかになる場合もあります)あり、学校生活や、仕事場で支障をきたしている場合に診断されます。(DSM-5:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fifth Editionより)
A:社会的コミュニケーションの障害 |
◻︎社会的相互反応の問題 :他者と社会的なやり取りをしたり、気持ちを伝え合うことが難しい。会話のやり取りがうまくいかない。「暗黙のルール」がわからないなど |
◻︎非言語コミュニケーションの問題 :表情の変化で物事を伝えることや、アイコンタクト、ジェスチャーで自分の意図を伝える際の困難さなど |
◻︎対人関係の問題 :人間関係を発展させ、維持させることの困難さ。友人を作ることの困難さなど |
B:限定された反復的な行動様式 |
◻︎常同反復性 :ものを並べたり、飛び跳ねたり、同じ言葉を何度も使ったり、相手の言ったことをオウム返ししたり、状況と関係のない言葉を発するなど |
◻︎儀式的な行動、思考 :常に同じであること、決まった手順を踏むことに強くこだわる、ゼロ100思考、思考の柔軟性のなさなど |
◻︎限定的な興味 :特定のものに対しての強いこだわり(特定のものを集める)など |
◻︎感覚の過敏さ/鈍感さ :音、におい、光などへの過敏さ、もしくは鈍感さなど |
人口の中で1%ほどの人が抱えていると考えられています。4:1で男性の方が多いとされていますが、まだまだ研究段階のため、この数字は今後変わってくる可能性があります。お子さんが幼少の頃から、育てにくさがあることが多いとされます。
最大の課題は「コミュニケーション」にあると考えられます。相手の立場に立って考えることが苦手で、その場に応じない対応や言動を取ってしまうことがあります。
一方で、ある特定の分野には強い関心を示し、その分野で大成する方もいます。
不注意や、衝動性、多動性がある場合、注意欠如・多動症(Attention-deficit/Hyperactivity disorder:以下ADHD)
の可能性があります。大人になっても症状が続くこともあり、学校や職場に不適応を起こし、二次障害が出る場合もあります。
以下のDSM-5の項目で、17歳未満はそれぞれ6個以上、17歳以上の場合は、それぞれ5個以上を満たしており、これらの症状が6ヶ月以上続き、12歳以前、2つ以上の状況で存在した上で、学校や職場で問題化している場合に診断されます。
A.不注意 |
◻︎不注意な間違い:細部の見過ごし、作業が不正確 |
◻︎注意の持続困難:長時間の講義や会話に集中し続けることができない |
◻︎聞いていないように見える:心ここにあらずのように見える |
◻︎指示に従えず、やり遂げることができない:課題を始めても、やり遂げられない |
◻︎順序立てることができない:資料や持ち物の整理ができない、時間の管理が苦手、締め切りが守れない |
◻︎精神的努力の持続が必要な課題を避ける:宿題や、報告書の作成、書類を漏れなく記入するなどを嫌う |
◻︎なくしてしまう:学校の教材や、財布、書類、携帯電話などをしばしばなくす |
◻︎気が散ってしまう:外的な刺激によって気が散る |
◻︎忘れっぽい:約束、お使い、電話の折り返し、支払いなどを忘れる |
B.多動性-衝動性 |
◻︎手足をもじもじさせる:手足をそわそわ動かす、トントンたたいたりする |
◻︎席を離れる:教室や職場でとどまるべき場面で、自分の席を離れる |
◻︎走り回る、高いところへ登る:不適切な状況で走ったり、高いところに登る |
◻︎静かに遊ぶことができない:じっと遊ぶことができない |
◻︎じっとしていられない:教室や会議で長時間とどまることができない |
◻︎しゃべりすぎる |
◻︎質問が終わる前にしゃべりだす:他の人たちの言葉の続きを言ってしまう、遮る |
◻︎順番を待つことが困難:列に並ぶことが苦手 |
◻︎他人を妨害し、邪魔をする:会話、ゲームを邪魔する、他人のしていることに口を出す |
限局性学習症(Specific Learning Disorder:以下SLD)は、従来学習障害と言われていたものです。知的な問題がないにもかかわらず、学習課題でつまづきが出てくる場合、SLDの可能性があります。
主に、読み書き障害(ディスレクシア)、書字障害、算数障害の3つが、代表的なSLDです。
学齢期に明らかになることが多く、教科書の読み取りに時間がかかることなどから、成績が低くなることがあります。また大人になっても、文字を読むスピードが遅いなどの症状が残ります。
以下のDSM-5に記載されている症状のうち、少なくとも1つが存在し、6ヶ月間持続しているものであり、暦年齢に期待されるよりも、低い学業、職業遂行能力、日常生活活動に障害を引き起こしている状態の場合に診断されます。
◻︎読むことが不的確または速度が遅く、努力が必要である |
単語を間違ってまたはゆっくりと音読する、言葉をあてずっぽうに言うなど |
◻︎読んでいるものの意味を理解することの困難さ |
読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解できないなど |
◻︎つづり字の困難さ |
母音や子音を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりする |
◻︎書字表出の困難さ |
文法または句読点の間違い、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない |
◻︎数学の概念、数値、または計算を習得することの困難さ |
数字、その大小、関係の理解に乏しい。一桁の足し算を指を折って数えるなど |
◻︎数学的推論の困難さ |
定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、数学的方法を適用することが非常に困難 |
以下の図は2016年に内閣府が発表した、15歳〜39歳までのひきこもりのきっかけをまとめたものです。この中に「職場になじめなかった」「人間関係がうまくいかなかった」「大学になじめなかった」は「コミュニケーションの不具合」を理由にするものと考えられます。
発達障がいを抱える方は、対人関係に苦手さを感じることが多いです。はっきりと明示されているわけではありませんが、ひきこもりの背景に発達障がいが隠れていることがあります。
ひきこもるようになって初めて「自分は(子どもは)発達障がいがあるかもしれない」とネットなどで情報を集め、診断を受ける方も多いのです。
ケースバイケースになりますが、発達障がいが、小中高また大学に在学中は大きな問題にならないことがあります。学校という場所は、カリキュラムが成立してる場所です。いつに何をするかということがはっきりしています。時間割もありますので、時間で区切って「ここからは国語の時間」「今からは体育」というように、一日の成り立ちが理解しやすいのです。
そのため、大人になってから発達障がいを抱えていたことがわかった方の多くは、学生時代は「そう言えばちょっと周りと違うかなと思うことはあった」けれど「あまり気にならなかった」と本人も周りも気づかないことがあります。
また「合理的配慮」といって、学習に困難がある子や、対人関係に悩んでいる子たちに対して、先生が個別についてくれたり、同級生に説明してくれたりということも行われます。学校という場所は、発達障がいを抱えている子に対して、大人の社会に比べると理解はされやすい環境があります。
しかしながら、社会に出て働くとなると、カリキュラムが学校のように決まりきっているわけではありません。むしろイレギュラーなことは日常茶飯事に起こります。臨機応変の対応を求められる場面が増えますが、突発的事態に対応することが苦手なASDなどは、うまく対応することができなくなります。
さらに、学校ほど理解が進んでいるわけではなく特性を受け入れてもらえず(もしくは不当に差別され)、対応してもらえないこともあります。
働き出してから、ご自身の特性に気づく方も多くいらっしゃいます。特に「グレーゾーン」と呼ばれる「診断がつくわけではないけれど、ちょっと特性に偏りがあるかな?」と思われる方は、学校現場で見過ごされることは多いのです。
ひきこもりは「個人の特性」×「外部環境からの強いストレス」×「失敗経験」が「掛け合わされる」ことによって起こると考えられます。例えば発達に特性がある方で、他者とのコミュニケーションがうまく取れないということがあるとします。そのことによって人間関係が悪くなり、強いストレスとなります。精神疾患などを引き起こし退職することで失敗経験となり、ひきこもるようになると考えられます。
お子さんの様子を見て「もしかしたら発達障がいがあるかもしれない」と思われた場合に、どのように対応するのが適切かについてお伝えします。
①お子さんの「困っていること」を整理する
お子さんが何に困っているかについて整理するようにしていきます。そのために「聴く」姿勢が重要となります。お子さんの思いを聴くために必要な「3つの力」について述べます。
①共感力
共感とは「あたかも自分も感じているように感じること」になります。「そうか、しんどいよね」と感情の言葉に反応することでお子さんは「共感してくれた」と感じやすくなります。
共感は聴き手が「共感していますよ」と伝えることが大事なのではありません。あくまでお子さん本人が「共感してもらっている」と感じられることが大事になります。
それを感じやすくしてもらうのが「感情の言葉に反応すること」です。「悲しい」「辛い」「苦しい」などの「一語で表せる言葉」が感情の言葉です。一回の対話でそう何度も出てくるものではありません。だからこお子さんの方に意識を向けて話を聴くことが必要になります。
そのときの姿勢はまさにお子さんの方に「傾いて」いると思います。だから「傾聴」と言うのです。傾聴は姿勢も重要になるのです。
②受容力
共感力は大切なことですが、お子さんの話にいつも共感できるとも限りません。「仕事をしたくない」と言ったときに親はしてほしいと思っているのに「そうだねしたくないよね」というのは「嘘」になります。
共感がうまくできないと思ったときは「受容」を大事にします。受容とはお子さんの思いをそのままに受け止めることです。「仕事をしたくない」と言われたら「そうか、働きたくない気持ちがあるんだね」と返します。お子さんが言ったことに評価や判断を下すのではなく「まず受ける」ことを意識します。
受容は親子のコミュニケーションにおいて最も重要なものです。もしうまく対話ができていないときは受容を見直すだけでも効果があります。
コミュニケーションは「キャッチボール」に例えられます。受容がないコミュニケーションはお互いの投げたボールを受け取らず、自分の投げたいボールをお互いにぶつけ合っている状態です。
お子さんのどんな思いでもまず「受ける」ことを意識してみましょう。今お子さんとのコミュニケーションがうまくいっていない場合は、まずはここだけでも意識すると大きく変わってくる可能性があります。
③率直力
率直力とは「自分の思いをありのままに話す力」です。率直力は質問の際にも生きます。例えばお子さんが不満そうにしていたら「今不満な気持ちがあるかな?」と率直に尋ねるようにします。この方が話は進みやすくなります。
率直力には3つのポイントがあります。
1. 人格否定はしない
これは大原則ですが、いくら率直だからと言っても何でもかんでも思ったまま言っていいことにはなりません。人格否定はやめ、お子さんが受け取りやすい言葉で話すようにします。自分だったらどう言われたら素直に受け止められるだろうか。この視点での発言を意識しましょう。
2. 本当に伝えたい思いを掘り下げる
親として伝えたい思いがある場合、まずはご自身で掘り下げるようにします。どうしてそう思うのか?という問いを自分に投げかけてみましょう。掘り下げた先にあるものが率直な思いです。その思いを伝えるのが率直力なのです。
3. アイメッセージで伝える
アイメッセージとは「自分を主語にして伝えるメッセージ」を指します。アイメッセージの「アイ」は英語の「I」です。「私はこのように思うよ」と自分を主語について伝えるようにします。そしてその後に「あなたはどう思う?」と意見を尋ねるようにします。こうすることで親としての意見を伝えてくれた上で自分の意見も聴こうとしてくれているとお子さんは感じられるようになります。
これらの、3つの力を意識して、親御さんの思いもちゃんと伝えるようにしましょう。そうすることで、お互いに腹を割った話し合いができるようになります。この話し合いができれば、安定期が停滞期になることを防ぐことができます。
これら3つの力を駆使しながら、お子さんと向き合い、お子さんが何に困っているかを受け止めるようにしていきます。
②困りごとを相談することを提案する
自分が困っていることを十分に周りに理解してもらえたら、お子さんは安心感を得られます。安心できる状態であれば、周りの意見を聴こうという思いも芽生えていきます。
困っていることが明確になったら「どうやったら解決できるか」という方法について提示します。そのときにすぐに「病院に行こう」「検査しよう」ではなく、「一個間に挟む」発想を持つようにします。つまり、いきなり病院ではなく「間に入ってくれる人につなぐ」という方法です。
例えば次のような人たちです。
▫️行政の方
・行政機関の相談員などに、つなぐ。
▫️民間のカウンセラー
・大人の発達障がいに専門的に対応できるカウンセラーにつなぐ。
▫️ボランティアの方
・NPO法人などのボランティアの相談機関につなぐ
どうしてすぐに病院につなごうとしないほうがいいかというと、親に病院に行け、と言われるのと、専門家に言われるのとでは響き方が異なるからです。
お子さんとしては「自分はもしかしたら発達障がいかもしれない」という思いを抱きつつも、どこかそれを否定されたいという思いも持っています。親がすぐに病院に連れていくと「親もそう思っている」と感じます。
しかし間に専門家が入ることで、ワンクッション入れることができます。また専門家の意見であれば、受け入れやすいということが起こります。直接すぐに診断を受けるのではなく、間に人を入れることで、スムーズに検査につなげやすくなります。
③「治す」よりも「活かす」発想を持つ
発達障がいと向き合う上で、最も大切な考え方が「治す」のではなく「活かす」という発想です。生まれ持っての脳機能の障がいという点について冒頭でお話ししました。顔の形や、目の色のように「変えられるものではない」ため「治す」という発想は発達障がいにおいてはお子さんを苦しめるものになります。
そうではなく、お子さんの「強み、得意とすること」と「弱み、苦手とすること」を整理し、「苦手とすること」をできるだけ避け、「得意とすること」を活かせるような学校選び、仕事選びを行うようにします。
実はこれは発達障がいを抱えている方だけに当てはまる考え方ではありません。全ての人に対しても同じことが言えます。誰しも「苦手」と「得意」があります。苦手なことが多い場所で働くと、ストレスは溜まりやすく、心理的にも、身体的にもやがて疲弊していきます。
一方で、得意を活かせたり、苦手が少ない場所で働くと、きっとその場は自分に合った居心地のいい場所になるでしょう。お子さんの得意と苦手と整理することは、これからの人生の「不必要なつまづき」を避けるために有効な考え方になります。
お子さんの対応を考える際に「得意なことと苦手なことはなんだろう」という視点から、課題を整理してみましょう。そこから将来が見えてくるようになります。
うまくお子さんの得意と不得意を整理することが難しいと思われる方は、一度無料カウンセリングをご利用ください。そこからヒントを見つけ、どうやればうまくいくかについて考えていきましょう。
私はこれまでも発達障がいを抱える方の就労や就学のサポートを行ってきました。最初はみなさん手探りの真っ暗闇の中にいるような気持ちを抱えていらっしゃいます。しかし、どんな方にも、得意とすることがあります。難関大学に合格された方、正社員として働くようになった方がいらっしゃいます。諦めそうになっている方こそ、ご連絡いただけたら嬉しいです。
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