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大人の発達障がいと就労について考える

ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如・多動症)・SLD(限局性学習症)などの発達障がい(もしくはグレーゾーン)を抱える方にとって「就労」は大きなテーマです。

 

学校生活に身を置いていた頃は、カリキュラムもはっきりしており「何をすればいいか」が明確でした。しかし仕事になると臨機応変の対応を求められることも多くなります。

 

大人の発達障がいと就労についてお伝えしていきます。

この記事でお伝えしていること

▫️大人の発達障がいの課題

▫️就労の際に起こりがちなこと

▫️より良い就労場所の選び方

▫️メンタルケアについて

▶︎この記事の著者

■略歴:OFFICE NAKAGAWA代表 なかがわひろか(中川広佳)

 

中学時代に不登校を経験。その後学校復帰。関西学院大学に合格する。大学卒業後、人材紹介会社にてマーケティング・人事を経験。

 

あるひきこもりの青年に出会ったことから、起業を決意し、専門的なカウンセリング・学習・キャリアサポートを行うOFFICE NAKAGAWAを2011年2月に設立。公認心理師、産業カウンセラーの資格を有する。

 

発達障がいを抱える方の大学進学、就職サポートを行う。

8050問題や、ひきこもりの対応など、PTA、学校関係、行政関係など講演実績多数。

 

【得意としている分野】

1. 不登校やひきこもり、発達障がいを抱える方またそのご家族のケア

2. 心理療法を応用した学習・就労支援

3. ビジネススキルの習得

▶︎大人になるとサポートされない大人の発達障がい

発達障がいには主に以下の3つの代表的なものがあります。

 

▫️ASD(自閉スペクトラム症:Autism Spectrum Disorder)

▫️ADHD(注意欠如・多動症:Attention-deficit/Hyperactivity disorder)

▫️SLD(限局性学習症:Specific Learning Disorder)

 

現代において発達障がいの理解は進んできました。特に教育現場では、避けては通れないものとなっています。そのため、環境が整備されるようになり、学校生活においては、ある程度発達障がいを抱える子どもたちをサポートする体制ができつつあります。

 

また学校生活は時間割が明確に決まっており、1日の行動がわかりやすくデザインされています。先生たちも視覚的な情報を用いながら、わかりやすく伝える努力をされていることもあり、少しずつですが過ごしやすい場所づくりがなされるようになりました。

 

しかしながら、学校を卒業した途端に、発達障がい、またグレーゾーンを抱える方のサポートの場所は学校現場ほど充実しているとは言えません。

 

学校では理解されていても、学校の外に出るとまだまだ認知されているとは言えません。そのため、学校生活では大きな問題がなかった子どもたちも大人になるにつれて、就労の困難さを抱えるようになります。

 

今日は大人の発達障がいと就労について考えていきましょう。

▶︎職場で困ること

発達障がいで代表的なものとしては、以下の3つが挙げられます。それぞれに困っていることについて共通点、違う点があります。それぞれの「困りごと」について考えてみましょう。

 

【発達障がいの代表的な3つのもの】

▫️ASD(自閉スペクトラム症:Autism Spectrum Disorder)

▫️ADHD(注意欠如・多動症:Attention-deficit/Hyperactivity disorder)

▫️SLD(限局性学習症:Specific Learning Disorder)

【発達障がいの基本的な考え方についてはこちらをご覧ください⬇︎】

▶︎ASD(自閉スペクトラム症)の職場での困りごと

 

ASDの特徴として「社会的コミュニケーションの障害」ならびに「限定された反復的な行動様式」が診断基準となっています。これはつまり「職場の人とうまくやっていくことの困難さ」「こだわりの強さ」と言い換えられます。

 

▫️職場の人とうまくやっていくことの困難さ

・同僚や上司、後輩に対して、気持ちを伝え合うこと、会話のやり取りがうまくいかない

・「暗黙のルール」がわからない

・表情を読み取ることが苦手で、言語化されていない空気を読むことが苦手

・細かいところが気になるため、何度も確認をし、注意される、怒られることがある

・口頭だけの指示だと、理解することが難しい場面があり、見当違いのことをやってしまう

・感情のコントロールがうまくできず、声を荒らげたり、乱暴な口調になったり、不機嫌な態度が表情に出てしまう

・休憩時間の雑談や飲み会が苦手で、職場の人と親密な関係性を築くことができず孤立することが多い

 

▫️こだわりの強さ

・マニュアルにこだわり、臨機応変な対応が難しい

・柔軟な対応よりも、決められた手順にこだわってしまう

・ルールを守らない人に対して、強いストレスを感じる。また厳しく言及してしまうことがある

・陰口を言われている、自分のことを嫌っていると思い込んでしまうことがある

・職場の温度や匂い、音に敏感で、仕事に集中できないことがある

・細部に気を配りすぎ、仕事のスピードが遅くなってしまうことがある

▶ADHD(注意欠如・多動症)の職場での困りごと

ADHDを抱える方の場合は、「不注意」と「衝動性・多動性」という観点から困りごとを持つことが多いです。

 

▫️不注意

・書類や資料などの細部の見過ごし、ミスが多い

・長時間の講義や会話に集中し続けることができない

・他のことに気を取られ、作業を最後までやり切ることができない、もしくはとても時間がかかる

・資料や持ち物の整理ができない、時間の管理が苦手、締め切りが守れない

・報告書の作成、書類を漏れなく記入するなどを嫌う

・電話の折り返し、支払いなどを忘れる

・財布、書類、携帯電話などをしばしばなくしたり忘れたりする

・指示されたことを聞き逃すことがある

 

▫️多動・衝動性

・手足をモゾモゾさせたり落ち着きがない

・席にじっと座っていることができない

・しばしば喋り過ぎてしまうことがある

・質問が終わる前にしゃべりだすなど、他の人たちの言葉の続きを言ってしまったり、遮ったりする

・話を最後まで聞き終える前に行動してしまう

▶︎SLD(限局性学習症)の職場での困りごと

SLDの主な症状は読み書き障害(ディスレクシア)、書字障害、算数障害の3つです。

 

▫️SLDの困りごと

・資料を読むのに時間がかかったり、読み飛ばしがある

・考えをまとめて話すことが苦手

・目からの情報処理が苦手なことがある

・主語と動詞が離れた長い話などを聞いていると混乱することがある

▶メンタルダウンを起こしやすい条件

発達障がいなど特性を抱える方は特にですが、環境条件はとても重要です。環境が整っていれば、ストレスを抱えることは減ります。一方で、周りの理解を得られないことによって、強いストレスを抱え、メンタルダウンを引き起こし、それが失敗経験となり自信を奪ってしまうようになります。

 

「個人の特性」×「外部環境からの強いストレス」×「失敗経験」が「掛け合わされる」ことによって起こると考えられます。例えば発達に特性がある方で、他者とのコミュニケーションがうまく取れないということがあるとします。そのことによって人間関係が悪くなり、強いストレスとなります。精神疾患などを引き起こし退職することで失敗経験となり、ひきこもるようになると考えられます。

自分の特性を知った上で、理解のある環境を探すことを大事に職場選びを考えるようにしましょう。

▶︎就労の際のポイント

①自分を知る


メンタルダウンや、就労してからひきこもりになる方の場合、「自分に合わない仕事や職場」を選んでしまっていることがあります。例えばASDを抱え、じっくりとマニュアルに忠実に仕事をすることが得意な方が、臨機応変な対応を求められるような学校現場や、福祉の現場、医療の現場で働くようなケースです。

 

発達障がいに限らず、自分が苦手とすることを仕事にするとうまくいかないことが多く、ストレスが溜まりやすくなります。ストレスが溜まることで精神疾患を引き起こし、それがひきこもりにつながることもあります。

 

自分は何が得意で、どんなことが苦手なのかを整理することから始めてみましょう。毎日現場が変わるような仕事の方が新規性がある方が充実するのか、逆に不安になってしまうのか、など、自分の得意、不得意の整理は仕事を選びに重要なものになります。

②苦手ベスト3を明らかにする


職探しでよくあるミスの一つが「やりたいことを考える」パターンです。一般的にはデザイン系や、教員など、華やかだったり、クリエイティブな仕事が人気があります。

 

ただ「あこがれ」で仕事選びをすると、いざやってみると全く自分に合わない、ということがあります。華やかな仕事に見えても、内情は地道なことの繰り返しであったり、同僚とのコミュニケーションで成り立っていることが多いためです。

 

「やりたいこと」をやることも大事なのですが、まず避けるべきは「絶対に苦手なこと」です。人と話すことが苦手な方が、接客業をやると毎日強いストレスに苛まれます。細かい数字のチェックが苦手がな方が経理をやるとミスだらけになり、叱責・注意を受ける日々になるでしょう。

 

「こういう職場は自分には向いていない」と思うこと「自分はこれが苦手だ」というものをまず考えられるだけ列挙してみましょう。そしてそれぞれに「向いていない度」で点数をつけます。100が絶対に無理、50は許容できるというようにです。

 

点数をつけると、順番をつけることができます。全てを避けることは難しくとも、上位3つほどはできるだけ避けるように考えるようにしてみるのです。

 

例)

①マニュアルの無い職場(90)

②自分で考えて臨機応変に対応することが多い職場(80)

③教えてくれる人がいない職場(70)

③やりたくないことに対処法を考える


やりたくないこと、苦手なことは基本的には避けられるように考えるのですが、もし対処することによって乗り切れるのであれば、それは苦手ではなくなります。

 

そこでそれぞれの課題について対処法を考えるようにしてみましょう。

 

例)

マニュアルのない職場

→先輩に確認しながら、自分でマニュアルを作るようにしてみる

 

教えてくれる人がいない職場

→教えてもらいやすくするための言い方を学ぶ

 

対処法を考えても、やはり難しいと思うことは、ベスト3に残し、避けるようにしましょう。

④上手な「頼み方」を学ぶ〜アサーションのすすめ〜


仕事には困りごとが必ず起こります。特に働き出してすぐは、仕事のこともわからないことが多いです。そんなときは上手に頼む、上手に断る方法を身につけておくと便利です。

 

その際に効果的な方法が「アサーション」という方法です。アサーションとは、「攻撃的な言い方と、受動的な言い方のいいところをとり『ちょうどいい言い方』を身につける方法です。

 

下記の例を見てみてください。上司に仕事を振られ、いつもなら言われるがままに受けていたものを上手に断る例です。

 

アサーションの例

 

まず受動的な言い方を考えます。断れることをできず受けてしまうパターンです。次に攻撃的な言い方を考えます。ただ受動、攻撃どちらも問題があります。

 

受動の場合は、自分ばかりが仕事を受けることになります。攻撃的な言い方をすると、職場の人間関係が悪くなります。お互いのちょうどいいところを取ってアサーティブな言い方を考えます。この言い方であれば、理由を添えて断れていますし、こう言われると「じゃあその仕事を回してこちらを先にお願いしていい?」と相手も言えるようになります。

 

発達障がいを抱える方の中には、うまく断れない方も多いです。そのため仕事を抱え込み、パンクしてしまったり、イライラを溜め、あるとき爆発してしまうことがあります。

 

うまく断れる方法や、うまくお願いする方法を身につけることで、自分の負担率を下げることができます。

⑤物事の捉え方を広げる


発達障がいの中でも、特にASDを抱えている方は、気持ちの切り替えが苦手だと言われます。こだわりも強いため、嫌なことがあったときに、ずっとそのことを考え続けてしまう傾向があります。

 

気持ちの切り替えには「コツ」があります。そのヒントとなるのが「認知行動療法」と呼ばれるものです。

認知行動療法の図

認知行動療法では、個人の中に「認知(思考とも言います)」を中心として、気分、行動、身体面に影響を及ぼすと考えます。例えばコンビニのレジで長く待たされる場面を想定します。

 

心の中の動きとしては「遅いなあ(認知)」→「怒り(気分)」→「貧乏ゆすりをする(行動)」→「顔が赤くなってくる(身体)」というようになります。

 

このときに「遅いなあ」という認知の部分を「今日から初めての人なのかな。頑張れ」と考えたらどうでしょうか?おそらく怒りは収まり、貧乏ゆすりもなく、顔が赤くなることもありません。もしかしたら「頑張ってね」と一言かけるかもしれません。

 

人の感情は簡単には変えることはできませんが、認知を捉え直すことによって、気持ちに変化を与えることができるようになります。認知行動療法は、ストレスケアに打ってつけの方法です。ぜひ一度検討してみましょう。

【認知行動療法の詳しい説明は👇をどうぞ】

▶就労の選択肢

発達障がいを抱える方の就労については、大きく2つの方法があります。それが「オープン型就労」と「クローズ型就労」です。

①オープン型就労

オープン型就労とは、自身の特性を企業側に伝えて就労する形です。(情報をオープンにする、という意味があります)。企業や自治体には「障害者雇用率制度」というものがあります。これは一定以上の従業員がいる企業においては、規定の率の障害者の雇用が義務付けられるというものです。ここでいう障害者とは身体障害・知的障害・精神障害(発達障害含む)を指します。

 

【障害者雇用率制度】

障害者について、一般労働者と同じ水準において常用労働者となり得る機会を確保することとし、常用労働者の数に対する割合(障害者雇用率)を設定し、事業主に障害者雇用率達成義務等を課すことにより、それを保障するものである。(厚生労働省)

 

 

雇用率はそれぞれ以下の通りです。( )内は令和6年4月から、令和8年6月までの率です

 

【民間企業】

民間企業 :2.7%(2.5%)

特殊法人等:3.0%(2.8%)

 

【国及び地方公共団体】

国、地方公共団体   :3.0%(2.8%)

都道府県等の教育委員会:2.9%(2.7%)

オープン型就労のメリット

最も大きなメリットとしては「発達障がいの理解度の高さ」が挙げられます。メンタルダウンを起こしやすい条件として、環境の問題を挙げました。オープン型にすることにより、周りが特性の理解に努めてくれる可能性が高まります。

 

またオープン型=障害者雇用率制度を活用する、と思われがちですが、必ずしもそうではありません。オープンにしても通常の雇用制度で就職することも可能です(企業による)。

 

オープン型就労のデメリット

デメリットとして考えられるのは、理解の度合いが人によって異なるという点です。頭では理解していても、実際に特性を目の当たりにすると受け入れることが難しいケースも起こり得ます。自身の特性を丁寧に説明することは必要となります。

 

②クローズ型就労

オープン型とは逆に、自身の特性については伝えない形での就労です。いわゆる一般的な就労となります。

 

 

クローズ型就労のメリット

自身の特性を知られたくない場合においてはメリットがあります。発達障がいの理解というのは、当事者や普段から関わっている方以外の人にとってはまだまだ馴染みのないものになります。言葉が一人歩きし「あの人は発達障がいだから」とレッテルを貼られるようなことが起こらないとは言い切れません。

 

着実に理解をしてもらえる場合でないときは、クローズで就労される方も多いです。

 

クローズ型就労のデメリット

情報がクローズにされることによって、周りは「どうしてあの人は指示されたことができないんだろう?」「忘れ物やミスが多い人だなあ」と感じることになります。その理由がわからないままなので「あの人は怠け者だ」と受け取られることもあります。

 

知られないことによって、厳しい叱責を受け、そのことが理由でメンタルダウンを引き起こすこともあります。

 

 

オープンかクローズかは、未来のことを考えながら決めましょう

迷われる場合は、一旦はクローズで就労し、状況を見てから上司や同じ部署の人だけに伝えておく、という方法もあります。理解を示してくれる人もいれば、よくわからないからと説明をスルーされる方もいます。話しても大丈夫だと思われてからオープンにする形もいいでしょう。専門家にも説明をしてもらうことも効果的です。ご自身が働きやすい環境を作るために最善の方法を考えるようにしましょう。

 

▶︎就労に困った方は一緒に考えましょう

発達障がいやグレーゾーンを抱えた就労に悩まれる方もたくさんいらっしゃいます。しかしながら、世の中に仕事と言われるものは30,000種類以上あると言われます。一つの仕事がうまくいかなかったと言って、仕事ができない人間だと思う必要はありません。ご自身の苦手をできるだけ避けつつ、得意を活かせるような仕事を見つけていきましょう。

 

お一人で悩まれている方は、ご連絡ください。一緒に考えていきましょう。

【無料カウンセリングはこちらからお申し込みください】

▫️OFFICE NAKAGAWAについて

ひきこもり・不登校・発達障がい専門カウンセリングルーム

OFFICE NAKAGAWA 

 

【事業内容】

①ひきこもりや不登校、発達障がいの心理ケア

②高校・大学受験などの学習サポート/就労のためのキャリアサポート

③メンタルヘルスなどに関連する講演・研修

 

 

発達障がいを抱える方やひきこもり、不登校状態のお子さんの就学・就労サポートを得意としています。

お子さんの将来のことでお困りの方は一緒に考えていきましょう。

▶︎OFFICE NAKAGAWA詳細

 

代表 なかがわひろか(中川広佳)